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東京地方裁判所 平成6年(特わ)3279号 判決

本籍

東京都目黒区中央町二丁目二一番

住居

東京都目黒区中央町二丁目二一番一一号

会社役員

大岡民雄

昭和一八年五月一四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官長島裕、弁護人續孝史、亀山晴信、秋山知文各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金七五〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都港区虎ノ門五丁目一二六番一一(但し、同土地面積は、登記簿上三三・一二平方メートル、実測三四・七〇平方メートル)に居住して、同宅地上の店舗居宅で有限会社民雄商店の代表取締役として飲食店を営み、平成二年一一月八日ころ、自己の所有する右宅地及び同宅地上の店舗居宅を代金合計一〇億三二八〇万三二〇円で譲渡したものであるが、右譲渡にかかる自己の所得税を免れようと企て、右譲渡代金の一部を除外し、同金額が七億一七四二万七一五二円である旨仮装する方法により所得を秘匿した上、平成三年分の総合課税の実際総所得金額が一二〇三万三四〇四円(別紙1所得金額総括表参照)、分離課税の実際長期譲渡所得金額が八億五〇六二万一〇四円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、同都目黒区中目黒五丁目二七番一六号(平成四年一二月二一日以降は同都目黒区東山三丁目二四番一三号)所轄目黒税務署において、同税務署長に対し、右譲渡収入により平成四年末までに買換資産を取得する見込みである旨の買換え承認申請書(平成七年押第三一六号の4)を提出してその承認を受けるとともに、平成三年分の総合課税の総所得金額が一二一一万九七三八円、分離課税の長期譲渡所得金額が三億八四四五万七三五八円で、これらに対する所得税額が合計六二〇三万六〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成七年押第三一六号の1)を提出し、さらに、平成四年末までに買換資産を取得しなかったことから、平成五年三月一五日、同税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総合課税の総所得金額が一二一一万九七三八円、分離課税の長期譲渡所得金額が六億六〇七一万五五九六円で、これらに対する所得税額が合計一億三一一〇万五〇〇円である旨の虚偽の所得税修正申告書(平成七年押第三一六号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、平成三年分の正規の所得税額一億六四〇四万七三〇〇円と右申告税額との差額三二九四万六八〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  第一会公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(四通)

一  大蔵事務官作成の収入金額(不動産所得)調査書、損害保険料(不動産所得)調査書、譲渡収入調査書、取得費調査書、譲渡費用調査書、領置てん末書

一  石井健一の検察官に対する平成六年一二月一三日付け供述調書(本文一〇丁綴り)

一  若佐充男、吉田徳三、山田丘、小川和夫の検察官に対する各供述調書

一  東京法務局港出張所登記官横山徹也作成の登記簿謄本(二通)

一  検察事務官作成の捜査報告書(三通)

一  目黒税務署長作成の証拠品提出書

一  押収してある平成三年分の所得税の確定申告書一袋(平成七年押第三一六号の1)、同平成三年分収支内訳書一袋(同号の2)、同譲渡所得計算明細書等一袋(同号の3)、同買換え承認申請書等一袋(同号の4)、同平成三年分の所得税の修正申告書一袋(同号の5)

(適用法令)(ただし、刑法は、いずれも平成七年法律第九一号による改正前のもの)

罰条 所得税法二三八条一項、二項(懲役と罰金を併科)

労役場留置 刑法一八条(金一〇万円を一日に換算)

刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑について猶予)

(量刑の事情)

本件は、いわゆる土地高騰の時期に地上げの対象となった土地所有者の被告人が本件不動産売買の仲介人となった者から、一坪あたりの譲渡単価が国土利用計画法に抵触しないようにする必要があり、かつ、本件不動産譲渡所得の一部を除外して申告する方法で脱税し、同人に脱税協力金の趣旨で一億円を与えれば、巧く処理する旨の甘言に釣られ、移転後の事業用経費や老後の蓄えを脱税により潤沢にしようとの浅薄な考えから実行に及んだ事案であり、その脱税額は三二九四万円余りと多額で、ほ脱率も約二〇パーセントにのぼる等納税義務に著しく違反する脱税行為であって、このような罪に対しては、我が国の誠実な納税者の納税意欲を損なわせず一般予防を図る観点からも厳しい処罰で対処すべきものと思料される。

ただ、被告人は、中学校卒業後、粒々辛苦して飲食店を独立開業し、今日まで前科前歴なく真面目に稼働して来た市民であること、本件発覚後、本税、延滞税及び重加算税を納付し、本件について十分反省していること、妻も法廷で今後の納税に対する監督を誓っていること等被告人のために有利に斟酌すべき事情も認められるので、これらの諸事情を総合考慮して、主文のとおりの懲役刑と罰金刑とを科することとするが、懲役刑については今回に限りその執行を猶予するのが相当と判断した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一〇月及び罰金一〇〇〇万円)

(裁判官 大谷吉史)

別紙1

所得金額総括表

〈省略〉

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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